
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)は、非正規雇用者のキャリアアップや待遇改善を目的とした助成金です。賃金規定等共通化コースの支給額や対象となる労働者のほか、受給要件をクリアする上で、注意すべきポイントについても紹介します。
目次
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)の支給額は、対象の労働者が増えるほど増額される
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)は、有期雇用の労働者に関して、正規雇用の労働者と共通の、職務などに応じた賃金規定を新たに作成し、適用することで受給できる助成金です。支給される金額は、適用された人数が増えほど増額される仕組みです。
支給額は1事業所当たり57万円
支給額は中小企業か、中小企業以外かで異なります。中小企業の場合、助成対象となる賃金規定を導入した後得られる助成金は1事業所当たり57万円です。中小企業以外の場合、42万7500円です。賃金規定を共通化した労働者が増えると、1人につき中小企業は2万円、中小企業以外は1万5000円が追加で支給されます。なお、支給されるのは2人目以降で、受給できる人数は最大20人までです。
中小企業 | 中小企業以外 | |||
通常の場合 | 生産性向上が認められる場合 | 通常の場合 | 生産性向上が認められる場合 | |
1事業所あたり | 570,000円 | 720,000円 | 427,500円 | 540,000円 |
対象労働者1人あたり | 20,000円 | 24,000円 | 15,000円 | 18,000円 |
生産性要件をクリアすれば最大112万円が受給可能に
生産性要件とは、生産性を高める取り組みを支援するために、生産性を向上させた会社へ支給する助成金の金額を割増する制度です。生産性要件が適用される条件は、次のいずれかになります。
- 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること
- 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)で生産性要件が適用された場合、中小企業であれば、最大で112万円を受給することができます。
「助成金が増える生産性要件とは? 利用の条件や受給額が増える助成金を紹介」を詳しく見る
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)の支給対象となる条件は、労働者と事業主それぞれにある
助成金の対象になる労働者の条件は5つ、事業主の条件は10あります。それぞれについて解説します。
対象になる労働者の条件は5項目
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)は、有期雇用の労働者のキャリアアップや待遇改善を目的としています。そのため、助成金の支給対象となる労働者は有期雇用であり、次の5つの項目を満たしていることが条件となります。
- 就業規則または労働協約の定めるところにより、賃金に関する規定または賃金テーブル等を共通化した日の前日から起算して3カ月以上前の日から共通化後6カ月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用の労働者などであること
- 正規雇用の労働者と同一の区分に格付けされている者であること
- 賃金規定等を共通化した日以降の6カ月間、当該対象適用事業所において、雇用保険被保険者であること
- 賃金規定等を新たに作成し、適用した事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること
- 支給申請日において離職していない者であること
対象になる事業主の条件は10項目
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)の支給対象となる事業主は、有期雇用と正規雇用の労働者の賃金格差の解消に取り組む事業主であり、次の10項目を満たしていることが条件となります。
- 就業規則または労働協約の定めるところにより、その雇用する有期雇用の労働者などに関して、正規雇用の労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに設け、賃金規定等の区分に対応した基本給等の賃金の待遇を定めている事業主であること
- 正規雇用の労働者に係る賃金規定等を、新たに作成する有期雇用の労働者などの賃金規定等と同時またはそれ以前に導入している事業主であること
- 当該賃金規定等の区分を有期雇用の労働者などと正規雇用の労働者についてそれぞれ3区分以上設け、かつ、有期雇用の労働者などと正規雇用の労働者の同一の区分を2区分以上設け適用している事業主であること
- 上記3の同一区分における、有期雇用の労働者などの基本給など職務の内容に密接に関連して支払われる賃金の時間当たりの額を、正規雇用の労働者と同額以上とする事業主であること
- 当該賃金規定等が適用されるための合理的な条件を就業規則または労働協約に明示した事業主であること
- 当該賃金規定等をすべての有期雇用の労働者などと正規雇用の労働者に適用させた事業主であること。
- 当該賃金規定等を6カ月以上運用している事業主であること
- 当該賃金規定等の適用を受けるすべての有期雇用の労働者などと正規雇用の労働者について、適用前と比べて基本給や定額で支給されている諸手当を減額していない事業主であること
- 支給申請日において当該賃金規定等を継続して運用している事業主であること
- 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること
事業主が注意すべき評価等級とは
先ほど紹介した、対象となる事業主の条件のうち、注意しなければならないのは3の賃金規定等の区分です。この賃金規定等の区分とは、表1にあるような評価の等級のことです。この評価等級を、有期契約と正規雇用でそれぞれ3つ以上作る必要があります。
区分 | 正規雇用労働者 | 有期契約労働者等 |
6等級 | 月給XX万円 | – |
5等級 | 月給XX万円 | – |
4等級 | 月給■■万円 | 時給□□円 |
3等級 | 月給▲▲万円 | 時給△△円 |
2等級 | – | 時給XX円 |
1等級 | – | 時給XX円 |
表2のケースだと、正規雇用は3等級から6等級で4つの等級、有期契約は1等級から4等級の4つの等級を用意しています。また、同一の等級を2つ以上つくることも必要です。表のケースだと、有期雇用の3等級から4等級と、正規雇用の3等級から4等級が、同一の等級として重なっています。
区分 | 正規雇用労働者 | 有期契約労働者 | ||
6等級 | 企画・監督 | 業務に関する高度な専門的知識・技能を有し、係の中・短期目標の遂行を図るとともに、部下の指導・教育を行い、その意欲を向上させることができる。 | – | – |
5等級 | 判断・指導 | 業務に関する一般的な専門的知識・技能を有し、グループの短期目標の遂行を図ることができるとともに、下位等級者に的確な助言ができる。 | – | – |
4等級 | 判断 | 業務に関する高度な実務知識・技能を有し、判断を要する業務を確実に遂行するとともに、下位等級者に部分的な助言ができる。 | 判断 | 業務に関する高度な実務知識・技能を有し、判断を要する業務を確実に遂行するとともに、下位等級者に部分的な助言ができる。 |
3等級 | 定型熟練 | 業務に関する一般的な実務知識・技能を有し、ある程度判断力を必要とする業務を、確実に遂行できる。 | 定型熟練 | 業務に関する一般的な実務知識・技能を有し、ある程度判断力を必要とする業務を、確実に遂行できる。 |
2等級 | – | – | 一般定型 | 業務に関する基礎的な実務知識・技能を有し、主として定型的な業務を、正確に遂行できる。 |
1等級 | – | – | 定型補助 | 特別な実務知識・技能を必要としない日常の反復補助的な業務を、細部的な指示を受けながら、正確に遂行できる。 |
このように、賃金表や賃金規定は、有期契約と正規雇用をそれぞれ作るのではなく、共通化してつくることがポイントです。
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)を受給するまでの5つのステップ
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)の申請で注意すべきポイントは、申請前にキャリアアップ計画書と就業規則を提出しなければならないことです。また、支給を申請するタイミングは、賃金規定を共通化し、6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2カ月以内です。
事前に提出が必要な書類は2つある
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)の受給条件である、有期雇用と正規雇用の労働者の賃金規定を共通化する前に、提出しなければならない書類が2つあります。キャリアアップ計画と就業規則です。
キャリアアップの目標や期間を定めたキャリアアップ計画
キャリアアップ計画とは、有期雇用の労働者などのキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために作成するものです。キャリアアップ計画の作成にあたって、労働者のキャリアアップを支援するキャリアアップ管理者を決めて、3年以上5年以内の計画期間を定め、目標や期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みを記載します。計画内容は精査されるので、綿密な計画と、具体的な訓練の記載がポイントになります。
職場のルールをまとめた就業規則
就業規則とは、職場のルールやマナーについてまとめた服務規律と、給料や時間外労働などの待遇をまとめた労働条件を記載した書類です。この2つが、キャリアアップ計画の内容と整合性が取れているか、厳正に審査されます。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)では、就業規則で有期雇用の労働者を無期雇用や正規雇用、無期雇用の労働者を正規雇用に転換する条件と、キャリアアップ計画に記載した目標が、合致していることが重要になります。
「助成金の申請で就業規則が必要? 対象の助成金や変更点を紹介」を詳しく見る
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)の受給申請に必要な書類は全部で10種類
受給申請に必要な書類は、次に紹介する10種類の書類です。
- 支給要件確認申立書
- 支払方法・受取人住所届
- 管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書
- 賃金規定等が規定されている就業規則または労働協約および賃金規定等が規定される前の就業規則または労働協約
- 有期雇用の労働者などと正規雇用の労働者が賃金規定等の適用を受けていることを証明する労働者名簿等(労働者ごとに賃金規定等の区分を示していることが確認できるもの)
- 同一区分が適用されている対象労働者全員(21人を超える場合は21人まで)および正規雇用の労働者1人(同一区分が複数ある場合は、各同一区分から1人)の共通化前および共通化後の雇用契約書など
- 同一区分が適用されている対象労働者全員(21人を超える場合は21人まで)および正規雇用の労働者1人(同一区分が複数ある場合は、各同一区分から1人)の賃金台帳または船員法第58条の2に定める報酬支払簿
- 同一区分が適用されている対象労働者全員(21人を超える場合は21人まで)の出勤簿など
- 中小企業事業主である場合、中小企業事業主であることを確認できる書類
- 企業の資本の額または出資の総額により中小企業事業主に該当する場合は、登記事項証明書、資本の額または出資の総額を記載した書類等
- 企業全体の常時使用する労働者の数により中小企業事業主に該当する場合は、事業所確認票
- 生産性要件に係る支給申請の場合の添付書類
表記が似ている賃金規定等改定コースとの違いは
キャリアアップ助成金には、賃金規定等共通化コースと表記が似ている、賃金規定等改定コースがあります。賃金規定等改定コースは賃金規定などの作成義務はありますが、就業規則で規定する必要はありません。評価基準は有期雇用の労働者内での評価であり、有期雇用の労働者内の正当な評価と賃金のアップを図ることが目的だからです。
今回紹介した賃金規定等共通化コースは、有期雇用と正規雇用と共通の賃金規定を就業規則に規定することが求められます。有期雇用と正規雇用との比較評価になるので、正規雇用の労働者と同じ業務を行っているのであれば、同一の賃金を支払うことになります。
まとめ
キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)は、賃金規定を整えることで受給できるので、受給のハードルはそれほど高くはありません。社会保険労務士のような専門家でなくても、事業主や社員が申請することもできるます。その際には申請書類をスムーズに、そして手間無く作成できる助成金クラウドをご活用ください。
ネット上で簡単に
申請書作成・承認依頼