両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、妊娠や出産、介護などを理由に退職した労働者が、復職で適切に評価、処遇される再雇用制度を導入する事業主を支援する助成金です。支給額や支給条件のほか、活用することで得られる助成金以外のメリットも紹介します。
目次
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の受給は、採用のアピールポイントになる
総務省が発表した平成29年就業構造基本調査結果によると、過去1年間に介護・看護のために仕事を辞めた方は9.9万人でした。また、第一生命経済研究所が、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査を基に試算した結果によると、出産を機に離職する女性は20万人に上ります。政府では、介護や出産で離職した方が、再び働ける社会にするため、様々な施策を行っています。
そのうちのひ1つが、両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)です。再雇用者評価処遇コースは、介護のほか、妊娠や出産などを理由に退職する労働者が、復職しやすい環境づくりに取り組む事業主を支援する助成金です。再雇用者評価処遇コースを活用するメリットは、助成金が得られるだけでなく、労働者にとって働きやすい環境を整えることにもつながります。採用においても、アピールポイントになることは間違いありません。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給額は、再雇用の人数と中小企業かどうかで決まる
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給額は、再雇用者の人数と、中小企業か中小企業以外かで決まります。なお、支給対象となる人数は、1事業主当たり5人までです。
中小企業 | 中小企業以外 | |||
再雇用人数 | 通常の場合 | 生産性向上が認められる場合 | 通常の場合 | 生産性向上が認められる場合 |
1人目 | 380,000円 | 480,000円 | 285,000円 | 360,000円 |
2~5人目 | 285,000円 | 360,000円 | 190,000円 | 240,000円 |
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、2回に分けて支給される
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の助成金は、2回に分けて支給されます。1回目の支給は、継続雇用6カ月後、2回目の支給は継続雇用1年度で、半額ずつ支給されます。なお、2回目の支給は、1回目の支給と同一の労働者が対象になります。つまり、1回目の支給後に対象の労働者が離職した場合は、2回目の支給を受けることができません。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、生産性要件をクリアすることで、受給額が増える
生産性要件とは、生産性を高める取り組みを支援するために、生産性を向上させた会社へ支給する助成金の金額を割増する制度です。生産性要件が適用される条件は、次のいずれかになります。
- 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること
- 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)で生産性要件が適用されると、中小企業の場合は、再雇用人数が1人であれば48万円、2人から5人であれば36万円に引き上げられます。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の受給対象になる事業主の条件は3項目
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の助成金の対象になる事業主の条件は3項目あります。
再雇用制度に関する7項目を就業規則か労働協約に規定している
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、次のいずれの条件にも該当する再雇用制度を就業規則か労働協約に規定している事業主であることを条件のひとつにしています。なお、過去に再雇用制度を設けている場合でもあっても、要件に沿った制度内容に改正すれば、対象となります。その場合、改正日以降の再雇用が対象になります。
- 当該制度の対象となる退職理由として、妊娠、出産、育児、介護または配偶者の転勤のいずれも明記していること
- 退職者が、その退職の際または退職後に、退職理由と就業が可能となったときに退職した事業主や関連事業主の事業所に再び雇用されることを希望する旨の申出を登録し、事業主が記録するものであること
- 制度の対象となる年齢について、定年を下回る制限を設けていないこと
- 退職後の期間が一定期間内の者のみを対象とする制度の場合、その期間は3年以上であること
- 再雇用する場合には、次のように退職前の勤務実績等を評価し、処遇の決定に反映させることを明記していること
- 退職前と同一の雇用形態及び職種で雇用する場合は、退職前の配置、賃金制度及び資格制度上の格付けを評価して処遇を決定する
- 退職前と異なる雇用形態及び職種で雇用する場合は、退職前の配置、経験、勤続年数等を評価した賃金の格付けを行う
- 対象者が退職から再雇用までの間に、就業経験、能力開発の実績がある場合は、次のように当該実績を評価のうえ処遇の決定に反映させることを明記していること
- 退職から再雇用までの間に、他の事業主のもとで就業実績がある場合は、当該業務内容、経験年数を評価した配置、賃金の格付けを行う
- 退職から再雇用までの間に、職業訓練の受講や資格取得などの実績がある場合は、当該能力開発の実績を評価した配置、賃金の格付けを行う
- 対象者の中長期的な配置、昇進、昇給等の処遇については、退職前の勤務実績及び退職から再雇用までの就業経験、能力開発の実績を踏まえた取り扱いを検討するものになっていること(再雇用制度対象者の配置、昇進、昇給などを一律に制限するなど、職務、役職、能力、職務経験、資格などが同等の他の労働者と比較して、合理的な理由なく低く取り扱う制度ではないことが必要)
4つの制度も就業規則か労働協約に規定している
再雇用制度のほか、次の4つの制度についても規定していることが、事業主の条件です。
- 育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業
- 同法第23条第1項に規定する育児のための所定労働時間の短縮措置
- 同法第2条第2号に規定する介護休業
- 同法第23条第3項に規定する介護のための所定労働時間の短縮等の措置
これらの規定は、支給申請日に施行されている育児・介護休業法の水準を満たしている必要があります。
期間の定めのない雇用契約で継続して6カ月以上雇用し、支給申請日にも雇用している
再雇用制度の施行後、支給対象になる労働者を採用し、期間の定めのない雇用契約により継続して6カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることも、事業主の条件です。有期雇用の労働者として採用した場合は、採用日から1年を経過するまでに期間の定めのない雇用契約を締結し、期間の定めのない雇用契約締結日から継続して6カ月以上雇用した場合に対象となります。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の受給対象になる労働者の条件は、期間がポイント
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)を受給するには、労働者の条件もクリアする必要があります。労働者の条件の中でも、特に重要なのは期間に関わる項目です。
対象となる労働者の基本的な条件は7項目
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給対象になる労働者の基本的な条件は7項目あります。このうち、退職前の雇用保険被保険者であった期間、退職から再雇用までの期間、採用から期間の定めのない雇用規約を締結するまでの期間、雇用保険保険者として雇用してから申請までの期間がポイントになります。1日でも要件を満たさなければ助成金は支給されないので、退職日や再雇用日を決める際には注意しましょう。
- 申請事業主または関連事業主の事業所を妊娠、出産、育児、介護または配偶者の転勤配偶者の転居を伴う転職を含むのいずれかを理由として退職した者であり、再雇用制度により採用されたこと
- 退職時または退職後に、退職理由と再雇用の希望を申し出ていたことが書面で確認できること(申出は、再雇用に係る採用日の前日までに行っている必要がある)
- 申請事業主または関連事業主の事業所を退職した日の前日において、当該事業主などの雇用保険被保険者として継続して雇用されていた期間が1年以上あること
- 再雇用に係る採用日において、当該退職の日の翌日から起算して1年以上が経過していること
- 再雇用制度に基づき評価、処遇がされていることが、支給申請書において確認できること
- 再雇用に係る採用日から1年以内に期間の定めのない雇用契約を締結し、当該雇用契約において雇用保険被保険者として、6カ月以上1年以上支給申請日まで継続して雇用されていること。ただし、就労を予定していた日数に対し、実際に就労した日数法に基づき労働者が請求できる休業(年次有給休暇の取得日、母性健康管理の措置としての休業、産前産後休業、育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇等については就労した日に含む)の割合が5割に満たない場合は、支給対象とならない。また、就業規則や労働協約に規定のある育児または介護のための所定労働日数の短縮措置により、所定労働日から除外された日は就労を予定していた日数に数えない。ただし、再雇用後、現に勤務しないまま申請期限を迎えた場合は支給対象外となる。
- 次に該当する者ではないこと。
- 退職後、再雇用に係る採用日の前日までに支給対象事業主または関連事業主と雇用、請負、委任の関係にあった、または出向、派遣、請負、委任の関係により当該事業主等の事業所において就労していた
- 退職後、再雇用に係る採用日の前日までに、支給対象事業主と資本的・経済的・組織的関連性等からみて密接な関係にある次のア、イいずれかに該当する事業主に雇用されていた
- 当該事業主と支給対象事業主のいずれか一方の発行済株式数または出資の総額に占める他方の所有株式数または出資の割合が5割を超える
- 代表者が同一または取締役を兼務している者がいずれかの取締役会の過半数を占めている
- 支給対象事業主の代表者または取締役の3親等以内の親族(配偶者、3親等以内の血族及び姻族をいう)である
- 事業主などの事業所を退職する際、妊娠、出産、育児、介護、配偶者の転勤及びこれらの事由に基づく法律上の休業または勤務制度の利用等を理由として、解雇された、または退職勧奨その他不利益な取り扱いを受けた
対象になる労働者は、採用日が2017年4月1日以降の方
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給対象になる労働者は、いつ再雇用されたのかも重要なポイントになります。再雇用制度の施行日又は改正日が2017年4月1日以降のため、助成金の対象になる労働者は、再雇用に当たる採用日が制度施行日又は改正日より後の方になります。
また、再雇用制度を規定する前に退職した労働者の場合、再雇用制度の施行日又は改正日前に退職していても、制度を適用して再雇用された方は対象となります。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の不支給要件は、解雇や退職勧奨の有無が重要に
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)では、次の条件に当てはまる事業主を支給の対象外として規定しています。解雇や退職勧告をおこなったことがある事業主、労働基準法に違反している事業主は、この不支給要件に当てはまるので、申請前に確認しましょう。
- 支給対象労働者を採用した日の前日から起算して6カ月前の日から1年を経過する日までの間の準備期間に、支給対象労働者を雇入れた事業所において、雇用保険被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く)を事業主都合によって解雇(勧奨退職等を含む)したことがある場合
- 基準期間に、支給対象労働者を雇入れた事業所で雇用する雇用保険被保険者を、特定受給資格者となる離職理由(解雇など)、勧奨退職のほか、事業縮小や賃金大幅低下などによる正当理由自己都合離職などに該当する離職理由により、再雇用に係る採用日における雇用保険被保険者数の6パーセントを超えて、かつ4人以上離職させている場合
- 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律及び女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の重大な違反があることにより、事業主に助成金を支給することが適切でないと認められる場合。 なお、育児・介護休業法の重大な違反については、支給決定までの間に行われたものを含む
- 支給申請時点で育児・介護休業法に違反し、同法第56条に基づく助言又は指導を受けたが是正していない場合
- 支給対象労働者に対して、法令及び就業規則に基づく賃金の全額が支払われていない場合
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の申請手順と注意する期限とは
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、取り組みを始める前にやるべきことのほか、提出する届出や支給申請の締め切りなど、期限に注意しなければならないことがあります。
受給するまでの8つのステップ
受給までのステップは、次の8つのステップです。
事前にやるべき2つのこと
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、事前にやるべきことが2つあります。1つは再雇用制度を就業規則か労働協約に規定することです。もう1つは、再雇用になる採用日から1年以内に、期間の定めのない雇用契約を労働者と締結することです。この2つを行っていないと、支給申請ができないので注意しましょう。
支給申請の締め切りは、継続雇用の条件をクリアしてから2カ月以内
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)が支給申請をするタイミングは2回あります。1回目の支給申請の締め切りは、継続雇用が6カ月経過する日の翌日から2カ月以内にです。2回目の支給申請の締め切りは、継続雇用が1年経過する日の翌日から2カ月以内です。どちらも、申請が可能になる日から2カ月以内と期限が決まっているので、スケジュールを管理しておきましょう。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給申請時に提出が必要な書類は9種類
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給申請時に提出が必要な書類は、次の9種類です。なお、7から9までの書類は、該当する事業主だけが必要な書類です。
- 両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)支給申請書の原本及び支給要件確認申立書の原本
- 労働協約または就業規則及び関連する労使協定。再雇用制度、育児・介護休業等の制度及び当該制度の施行日が確認できる部分。具体的には、支給申請事業主の労働協約または就業規則(再雇用制度については、当該制度導入前の規定や改定履歴がわかる資料など)及び関連する労使協定を添付すること。ただし、本社などと異なる規定を定める事業所がある場合は、その事業所の労働協約または就業規則の写しも含む。なお、就業規則の作成及び労働基準監督署への届出義務のない常時10人未満の労働者を雇用する事業主の場合で、就業規則の作成・届出をしていない場合は、制度の措置が明文により定められており、労働者に周知されていることを確認できる書類(労働者代表の署名があるもの)を添付する必要がある
- 支給対象労働者の、退職時または退職後における退職理由及び再雇用希望の申出が確認できる書類。労働者の申立書、再雇用希望者登録名簿など。再雇用制度施行前の退職者については、再雇用に係る申立書
- 支給対象労働者の再雇用に係る採用及び期間の定めのない雇用契約に係る雇用契約書または労働条件通知書など労働条件が確認できる書類
- 支給対象労働者の再雇用に係る採用後、期間の定めのない雇用契約の締結日から6カ月間(同一の支給対象労働者の2回目の申請時は、期間の定めのない雇用契約の締結日から6カ月が経過する日の翌日から6カ月間)の就労実績等が確認できる次の書類
- 支給対象労働者の所定労働日または所定労働日数が確認できる書類。労働条件通知書、就業規則、企業カレンダーなど
- 支給対象労働者の就労実績が確認できる書類。タイムカードまたは出勤簿など
- 支給対象労働者の賃金の支払い実績が確認できる書類。賃金規程及び賃金台帳など
- 申請事業主が、支給対象労働者が退職した事業所の関連事業主である場合は、これを証明する資料。支給対象労働者が退職した事業所の再雇用制度を定めた就業規則や労働協約、内部規則、事業主間の協定書など
- これまで雇用関係助成金を受給したことがない場合または過去に受給したことがある事業主で登録済の口座番号に変更がある場合のみ、支払方法・受取人住所届及び通帳の写しなど支払い口座番号が確認できる書類
- 生産性要件算定シート及び算定の根拠となる証拠書類。損益計算書、総勘定元帳など
- 生産性要件算定シートによる計算の結果、生産性の伸びが6%未満の場合は、与信取引等に関する情報提供に係る承諾書
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)は、助成金の返還が求められることがある
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の支給が支給された後に、支給要件の満たしてないことが判明した場合、労働局は助成金の全部または一部の支給取り消しを行います。取り消しが決定すると、助成金を返還しなければならいので、このような事態にならないように、申請前に今一度、事業者と労働者の条件を確認しておきましょう。
まとめ
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)を受給するための取り組みは、これまで介護や妊娠・出産で離職した方が、もう1度働ける環境が整い、労働者が安心して働くことができるようになります。こうした環境をアピールすることで、採用力の向上にもつながります。復職する労働者は、過去に雇用していた方なので、即戦力としての活躍も期待できます。
活用のメリットが多い両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)の申請をご検討ください。申請に当たって、作成する書類は多いため、効率よく書類を作成できる助成金クラウドの活用をお勧めします。
ネット上で簡単に
申請書作成・承認依頼