働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、時間外労働の上限時間の設定や、長時間労働の見直しを促す助成金です。労働時間の短縮に取り組む費用の一部が支給される時間外労働上限設定コースの受給条件や支給額、支給することで併せて受給できる助成金、できない助成金まで紹介します。
目次
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、改正された労働基準法に対応することで受給できる
長時間労働を改善するため、政府は労働基準法を改正し、2019年4月から施行されました。その結果、大手企業は2019年4月から、中小企業は2020年から次の8項目の対応が求められます。
- 残業時間の罰則付き上限規制
残業時間を原則月45時間かつ年360時間以内、繁忙期であっても月100時間未満、年720時間以内にすること - 5日間の有給休暇取得の義務化
年10日以上の有給休暇が発生している労働者に対して、事業主は5日の有給休暇させること - 勤務間インターバル制度の努力義務
勤務後から次の勤務までは、少なくとも10時間、心身を休める時間を設けること - 割増賃金率の中小企業猶予措置廃止
中小企業も、月の残業時間が60時間を超えた場合、割増賃金の割増率を50%以上にすること - 産業医の機能を強化
従業員の健康管理に必要な情報の提供し、事業主は客観的な方法で、労働時間を把握すること - 同一労働・同一賃金の原則の適用
同一労働・同一賃金の原則を踏まえ、正規・非正規の不合理な格差をなくす取り組みを実施すること - 高度プロフェッショナル制度の創設
年収が1075万円以上で、一定の専門知識を持った職種の労働者を対象に、本人の同意等を条件として労働時間規制や割増賃金支払の対象外とすること - 3カ月のフレックスタイム制が可能
フレックスタイム制を2カ月単位や3カ月単位でも適用すること
改正労働基準法が施行されたことで、36協定を結んでいたとしても、大企業はもちろん、中小企業も、残業削減や有給休暇の取得促進に取り組む必要があります。厚生労働省は、中小企業の取り組みをさらに後押しするため、これまであった時間外労働等改善助成金(時間外労働上限設定コース)を、2020年度から働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)という名称に変更し、支給条件を追加することで活用を促しています。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給対象となる事業主の条件は4項目
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、中小企業の残業時間の上限設定への取り組みに対して支援することを目的とした助成金です。そのため、助成金の支給対象となる事業主は、次の3項目の条件を満たす必要があります。
- 次の表にある中小企業の事業主
- 労働者災害補償保険の適用事業主
- すべての対象事業所で36協定を締結していること
- 年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること
産業分類 | 資本金の額・出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給対象の条件は、取り組み、経費、成果目的の3つをクリアすること
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)では、支給対象となる中小企業が、次に紹介する取り組み、経費、成果目的の3つの条件をクリアすることで支給されます。
支給対象となる取り組みは8項目
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給対象となる取り組みは、次の8項目です。支給の条件は、このうち1つ以上を実施することです。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新
- テレワーク用通信機器の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
このうち、対象となる研修には、業務研修が含まれます。また、対象となる機器には、原則として、パソコン、タブレット、スマートフォンは含まれません。
支給対象となる経費は10項目
時間外労働の時間を削減する取り組みを行ったとき、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給対象となる経費は、次の10項目です。
- 謝金:専門家謝金
- 旅費:専門家旅費、職員旅費(外国旅費、日当、宿泊費を除く)
- 借損:機器・設備類、ソフトウェア等のレンタル、リースなどの費用、ICTを利用したサービスの利用料(リース料、レンタル料、サービス利用料などに含まれる諸経費)
- 会議費:会議の費用(会場借料、通信運搬費含む)
- 雑役務費:研修等受講料、機器・設備類、ソフトウェアなどの保守費用
- 広告宣伝費:求人広告の掲載、合同企業説明会への出展、求人パンフレット・ダイレクトメールなどの作成等の費用
- 印刷製本費:研修資料、マニュアルなどの作成費用
- 備品費:図書、ICカード、自動車(乗用自動車等を除く)などの購入費用、ソフトウェアなどの購入、改良などの費用(設定費用、社員などに対する研修費用を含む)
- 機械装置などの購入費:機器・設備類の購入、改良などの費用(設定費用、社員などに対する研修費用を含む)、機器・設備類の設置、撤去などの費用
- 委託費:調査会社、コンサルタント会社、システム開発会社、広告代理店等への委託費用
支給対象外となる経費は11項目
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)では、支給対象にならない経費も定めています。支給対象外となる経費は、次の11項目です。
- 乗用自動車等(乗車定員10人以下の自動車であって、貨物自動車や特殊用途自動車以外のものをいう)の購入費用
- パソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用(特定業務専用のシステム(POSシステム、会計給与システムなど)に組み込まれて用いられ、汎用ソフトを使用してはならない仕様の端末やシンクライアント端末は助成対象として認める場合がある)
- 単なる経費削減を目的としたもの(LED電球への交換など)
- 不快感の軽減や快適化を図ることを目的とした職場環境の改善に係る費用
- 通常の事業活動に伴う経費(事務所借料、光熱費、従業員賃金、交際費、消耗品費、通信費、汎用事務機器購入費など)
- 交付決定の日より前に開始した事業に係る費用
- 社会保険労務士事務所などの専門的知識を有する事業所であって、自ら取組が可能な事業に関する費用
- 法令などで義務づけられ、当然整備すべきとされているにも関わらず義務を怠っていた場合における、当該法令などで義務づけられた制度の策定などに係る費用
- 事業を実施する上で必須となる資格の取得に係る費用
- 経費の算出が適正でないと労働局長が判断したもの
- その他、社会通念上、助成が適当でないと労働局長が判断したもの
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給条件は、4つの成果目標のいずれかを達成すること
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給条件は、助成金で定められた成果目標のいずれかを達成することです。その成果目標は次の4つです。
- 全ての対象事業場において、月60時間を超える36協定の時間外労働時間数を縮減させること
- 時間外労働時間数で月60時間以下に設定
- 時間外労働時間数で月60時間を超え月80時間以下に設定
- 全ての対象事業場において、所定休日を1日から4日以上増加させること
- 交付要綱で規定する特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇)の何れか1つ以上を全ての対象事業場に新たに導入すること
- 時間単位の年次有給休暇制度を全ての対象事業場に新たに導入させるこ
なお、上記の成果目標に加えて、指定する労働者の時間当たりの賃金額を3%以上又は、5%以上で賃金引上げを行うことを成果目標に加えることができます。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給額の上限は340万円
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給額は、取り組みの内容によって異なります。支給額の上限は、340万円と定められています。
支給対象となる経費の4分の3を支給されるケース
常時使用する労働者数が30名以下で、支給対象の取り組みが次の3項目で経費の合計が30万円を超える場合、その経費の補助率は5分の4になります。
- 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新
- テレワーク用通信機器の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
成果の目標の達成と、賃金引き上げで支給されるケース
先ほど紹介した成果目標と、賃金引上げの達成時の加算額によって、次の表に示した金額が支給されます。
事業実施前の設定時間数 | ||
事業実施後に設定する時間外労働時間数等 | 現に有効な36協定に おいて、時間外労働 時間数等が月80時間 を超える時間外労働 時間数を設定してい る事業場 |
現に有効な36協定に おいて、時間外労働 時間数で月60時間を 超える時間外労働時 間数を設定している 事業場 |
時間外労働時間数で 月60時間以下に設定 |
1,000,000円 | 500,000円 |
時間外労働時間数で 月60時間を超え月80 時間以下に設定 |
500,000円 | – |
成果目標②の上限額
・所定休日3日以上増加:50万円
・所定休日1~2日以上増:25万円
成果目標③達成時の上限額:50万円
成果目標④達成時の上限額:50万円
賃金引上げの達成時の加算額
引上げ人数 | 1~3人 | 4~6人 | 7~10人 | 11~30人 |
3%以上引上げ | 150,000円 | 300,000円 | 500,000円 | 1人当たり50,000円(上限1,500,000円) |
5%以上引上げ | 240,000円 | 480,000円 | 800,000円 | 1人当たり80,000円(上限2,400,000円) |
支給される金額は、2つのケースで算出した額の低い金額
支給額を算出する方法は、先ほど紹介した2つの方法があります。実際に支給される金額は、算出された額が低い額になります。つまり、対象経費の補助率によって算出された額が100万円、成果目標と賃金引上げの達成時の加算額の合計額が180万円だった場合、前者の支給額が適用されます。
なお、1企業に支給される上限額は200万円です。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の申請手順と注意する期限とは
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、取り組みを始める前にやるべきことのほか、提出する届出や支給申請の締め切りなど、期限に注意しなければならないことがあります。
受給するまでの4つのステップ
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の申請手順は、次の4つのステップです。
交付申請書の提出御締め切りは、2021年1月29日(金)まで → 申請多数につき2020年10月15日受け付け終了
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の交付申請書の提出御締め切りは、2021年1月29日(金)までと決まっています。締め切りまでの時間はわずかです。活用を検討してる方は、すぐに交付申請書を作成しましょう。また、来年度の申請を検討している方は、すぐに申請の準備にかかれるように、定期的に情報を収集しておきましょう。10/15に申請多数につき同日をもっと受け付け終了と発表されました。
支給申請は、2021年2月12日(金)まで
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給申請は、2021年2月12日(金)までと、こちらも決められています。1日でも遅れると支給されないので、早めに支給申請の準備を進めておきましょう。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)に取り組む前に、提出が必要な書類は6種類
時間外労働の労働時間を削減する取り組みを始める前に、次の6種類の書類を事前に提出する必要があります。
- 交付申請書
- 事業実施計画
- 事業に取り組む前の特別条項の締結状況、時間外労働時間数等、事業に取組む前の休日、年次有給休暇の規定を確認するための書類(36 協定の写し、賃金台帳の写し(交付要綱第3条第6項による賃金引上げを実施する場合は、交付申請前1月分の賃金台帳の写し)、就業規則の写し、必要に応じて労働条件通知書の写し)
- 事業を実施するために必要な経費の算出根拠を確認するための書類(見積書など)
- 全ての対象事業場において、交付申請時点及び支給申請時点で、36協定が締結・届出されていることを確認するための書類(36 協定の写し、就業規則の写し、年次有給休暇管理簿の写し)
- その他、労働局長が必要と認める書類
2の事業実施計画には、次の3項目を盛り込む必要があります。
- 実施体制の整備のために行う、次に挙げるaからcの措置
- 労働時間等設定改善委員会の設置など労使の話し合いの機会の整備
- 労働時間等に関する個々の苦情、意見及び要望を受け付けるための担当者の選任
- 労働者に対する事業実施計画の周知
- 支給対象となる事業
- 成果目標の設定
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給申請に必要な書類は9種類
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給申請には、次の9種類の書類が必要になります。
- 支給申請書
- 働き方改革推進支援助成金事業実施結果報告書
- 労働時間等設定改善委員会の設置等労使の話し合いの機会の整備の実施に関する証拠書類(参加者名簿と議事録、話し合いを行った際の写真)
- 労働時間等に関する個々の苦情、意見及び要望を受け付けるための担当者の選任の実施に関する証拠書類(周知文書。事業場に掲示した場合は、掲示した状況の写真)
- 労働者に対する事業実施計画の周知の実施に関する証拠書類(周知文書。事業場に掲示した場合は、掲示した状況の写真。なお、周知文書には実施体制の整備のための措置、支給対象の事業、成果目標の設定について盛り込むこと)
- 支給対象の事業の実施に関する証拠書類(各事業を実施したことが客観的に分かる資料。労務管理担当者に対する研修、労働者に対する研修、周知・啓発、外部専門家によるコンサルティングの事業を実施した場合は、実施日時、実施場所、実施者、被実施者、実施内容が明らかとなる書類、被実施者全員のアンケート結果、実施した際の写真を提出すること。また、外部専門家によるコンサルティングの事業を実施した場合は、改善措置の実施内容が明らかとなる書類を提出すること)
- 支給対象の事業の実施に要した費用の支出に関する証拠書類(領収書、費用の振込記録が客観的に分かる預金通帳など)
- 成果目標の達成状況に関する証拠書類(変更後の時間外・休日労働に関する協定届の写し、成果目標を設定した場合は作成・変更後の就業規則の写し、賃金台帳の写し)
- その他、労働局長が必要と認める書類
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)と併給できる助成金、できない助成金がある
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の支給を受けた中小企業が、新たに労働者を雇い入れたり、人材配置の変更、労働者の負担軽減など、雇用管理改善の取り組みに関連する雇用管理改善計画(1年間)を作成し、都道府県労働局の認定を受けることで、人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース)を受給併給することができます。
また、働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)は、取り組みの内容が異なれば、併給することができます。一方で、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給すると、併給調整によって、申請しても受給でき奈緒助成金があります。同一年度に、働き方改革推進支援助成金の勤務間インターバル導入コースや職場意識改善コース、テレワークコースとの併給はできません。
まとめ
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、残業時間の削減だけでなく、休日の増加などでも助成金を受給できるコースです。残業時間の削減や休日の日数増は、労働環境の改善だけでなく、採用のアピールポイントにもなるので、採用を強化していく考えの方も、ぜひ申請を検討してください。
申請したいが、申請書類の作成に時間がかけられない、作成できる自信がないという方は、ガイダンス機能を搭載し、記入する内容を分かりやすく伝え、スムーズな書類作成を実現する、助成金クラウドを活用してはいかがでしょうか。
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