助成金ノウハウ情報

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)は社会保険の導入を助成

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)は新たに有期雇用の労働者を社会保険の被保険者とし、基本給を増額した場合に助成される助成金です。この記事では、社会保険の概要から、選択的適用拡大導入時処遇改善コースの要件や支給額、申請方法について紹介します。

社会保険の加入対象が拡大に

社会保険とは、厚生年金保険と健康保険の総称です。厚生年金保険は、高齢、病気やけがによって働けなくなった場合や、大黒柱が亡くなった際の遺族の困窮を防ぐため、保険給付を行う制度です。

また、健康保険は、労働者やその家族の病気やけが、出産や亡くなった時などに、必要な医療給付や手当金の支給をすることで生活を安定させることを目的とした社会保険制度です。どちらの保険も、労働時間や事業の規模が一定の要件を満たすと加入義務が発生します。

2017年4月から社会保険の加入要件が広がり、従業員500人以下の会社で働く週20時間以上労働を行う有期雇用の労働者も、労使で合意すれば会社単位で社会保険に加入できるようになりました。厚生労働省は、この労使合意に基づく社会保険の適用拡大を促進するため、キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)を支給しています。

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給額は、基本給の増額割合で決まる

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給額は、基本給の増額割合に応じて決まります。

支給額は最大276万円

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、1事業所当たり、申請ができるのは1回のみで、支給申請の上限人数は45人までです。助成金の支給額は、中小企業か、中小企業以外かで変わります。支給される金額は、最大で276万円になります。

なお、2020年度からは、中小企業を対象に、2つの加算措置が新設されました。ひとつは、労使合意に基づく任意適用に向けて、保険加入と働き方の見直しを進めるための取組を行った場合の助成措置です。外部専門家を活用した被用者保険の加入メリット等の説明・相談、保険加入や働き方(就業時間等)の意向調査などを行った中小企業には、19万円が支給されます。

もうひとつは、短時間労働者の生産性の向上を図るための取り組み(研修制度や評価の仕組みの導入)を行った場合の加算措置で、中小企業に10万円が支給されます。また、被用者保険加入とともに基本給の増額を行う場合の助成メニューについては、複数回支給を可能とし、2%以上の増額も対象となりました。支給額は下記の表を参照してください。

支給額
中小企業 中小企業以外
1人あたり 通常の場合 生産性向上が認められる場合 通常の場合 生産性向上が認められる場合
2%以上 19,000円 24,000円 14,000円 18,000円
3%以上5%未満 29,000円 36,000円 22,000円 27,000円
5%以上7%未満 47,000円 60,000円 36,000円 45,000円
7%以上10%未満 66,000円 83,000円 50,000円 63,000円
10%以上14%未満 94,000円 119,000円 71,000円 89,000円
14%以上 132,000円 166,000円 99,000円 125,000円

 

生産性要件をクリアすることで、受給額が増える

生産性要件とは、生産性を高める取り組みを支援するために、生産性を向上させた会社へ支給する助成金の金額を割増する制度です。生産性要件が適用される条件は、次のいずれかになります。

  • 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること
  • 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)で生産性要件が適用された場合、中小企業であれば最大で1人当たり16万6000円が支給されます。

「助成金が増える生産性要件とは? 利用の条件や受給額が増える助成金を紹介」を詳しく見る

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の対象になる労働者・事業主の条件とは

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給対象となるには、労働者・事業主それぞれの要件を満たす必要があります。

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給対象になる労働者の条件は5項目

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給対象になる労働者の条件は、次の5項目です。

  • 支給対象事業主に雇用される有期雇用の労働者などであること
  • 措置の該当日の前日(以下「措置該当日」という。)から起算して過去3カ月以上の期間継続して有期
  • 労働者などとして雇用されていた者であること
  • 措置該当日の前日から起算して過去3カ月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった者であること
  • 労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を実施した事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること
  • 支給申請日において離職していない者であること

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給対象になる事業主の条件は7項目

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給対象になる事業主の条件は、次の7項目です。

  • 労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を実施した事業主であること
  • 1の措置該当日において、新たに社会保険の被保険者となった全ての有期雇用の労働者などの基本給を増額し、かつ、定額で支給されている諸手当を減額していない事業主であること
  • 1の措置該当日において、新たに社会保険の被保険者となった全ての有期雇用の労働者などの基本給について、1の措置を講ずる前の基本給と比べて一定の割合(3%以上)で増額する措置を講じた事業主であること
  • 有期雇用の労働者などを措置適用後6カ月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して基本給の増額後6カ月分の賃金を支給した事業主であること
  • 措置該当日以降の期間について、当該労働者を雇用保険および社会保険の被保険者として適用させている事業主であること
  • 上記2実施後に、社会保険加入状況および基本給を明確にした雇用契約書等を作成および交付している事業主であること
  • 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること

労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を実施した事業主とは

事業主の条件の中で記載されている、「労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を実施した事業主」とは、被保険者数が常時500人以下の事業所であって、労使合意に基づき社会保険加入の申出をする事業主を指します。

この事業主として認められるには、任意特定適用事業所の申請を行い、任意特定適用事業所該当通知書の交付を受けることが必要です。

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給までの5つのステップ

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の申請で注意すべきポイントは、受給申請の前にキャリアアップ計画書と就業規則や労働協約を労働局に提出しなければならないことです。また、支給を申請するタイミングは、基本給を増額して、6カ月分の賃金を支給した日の翌日から2カ月以内になります。

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)に取り組む前に提出が必要なキャリアアップ計画とは

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)を受給する条件である、基本給の増額を実施する前に、キャリアアップ計画を提出する必要があります。キャリアアップ計画とは、有期雇用の労働者などのキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために作成するものです。キャリアアップ計画の作成にあたって、労働者のキャリアアップを支援するキャリアアップ管理者を決めて、労働組合などの意見を取り入れ、基本給増額や社会保険加入などの計画を記載します。

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)の支給申請に必要な書類は9種類

実際にキャリアアップ計画を実行し、基本給を増額して6カ月分の賃金を支払った後、2カ月以内に支給申請が必要となります。支給申請に必要な書類は次の8種類です。生産性要件による増額を申請する場合は追加で1種類が必要となります。また、労働局が必要と認めた場合は他の書類も提出する場合があります。

  • 支給要件確認申立書
  • 支払方法・受取人住所届
  • 管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書
  • 対象労働者の基本給の増額前および増額後の雇用契約書等
    ※必要に応じて労働者本人の署名等が分かる雇用契約書等
  • 対象労働者の労働基準法第108条に定め賃金台帳または船員法第58条の2に定める報酬支払簿
    ※基本給の増額前3カ月分(基本給の増額の適用を受けた日の前日から3カ月前の日までの賃金に係る分)および増額後6カ月分(当該適用を受けた日から6カ月を経過する日までの賃金に係る分
  • 対象労働者の出勤状況・出退勤時刻を確認するための書類(出勤簿など)
    ※基本給の増額前3カ月分および増額後の6カ月分
  • 任意特定適用事業所該当通知書
    ※公的年金制度の財政基盤および最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律附則第17条第5項の申出をし、任意特定適用事業該当通知書の交付を受けた事業所
  • 中小企業事業主である場合、中小企業事業主であることを確認できる書類
    • 企業の資本の額または出資の総額により中小企業事業主に該当する場合登記事項証明書、資本の額または出資の総額を記載した書類等
    • 企業全体の常時使用する労働者の数により中小企業事業主に該当する場合事業所確認票(様式第4号)
  • 生産性要件に係る支給申請の場合の添付書類
    生産性要件算定シートおよび算定の根拠となる証拠書類(損益計算書、総勘定元帳、確定申告書Bの青色申告決算書や収支内訳書など)

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長コース)と併給が可能な場合も

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長コース)は、短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成される助成金です。このキャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)を実施して、週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長し、昇給することで支給されます。

選択的適用拡大導入時処遇改善コースの受給条件をクリアするために基本給を増額しますが、増額する割合によっては、週所定労働時間を延長するだけで短時間労働者労働時間延長コースも受給できるので、ぜひ併給をご検討ください。

まとめ

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)は、社会保険の加入対象の拡大に伴い、社会保険の加入を促進する、暫定的な対応として設けられた助成金です。助成金の申請を検討している方は、早めの申請を心がけてください。申請の際には、書類の作成がスムーズに行える、助成金クラウドをご活用ください。

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